「ふつうにつくる」ということ

「ふつうにつくる」ということ 地域材と在来工法による現代木造の試み

地域材と在来工法による現代木造の試み三重県が主催する「三重県中大規模木造建築設計セミナー」において、弊社設計の「名張きぼうのこども園」が講習および見学会の会場として取り上げられました。修了生として登壇する機会をいただき、自らの木造設計をあらためて見つめ直す貴重な契機となりました。

本園の設計で大切にしたのは、地域の建築は地域の材料と人の手でつくる、というごく当たり前の姿勢です。言い換えれば、奇をてらわず「ふつうにつくる」ことの価値を追求しました。

三重県伊賀地域は森林資源に恵まれています。その豊かな資源を活かすため、特殊な技術や材料には頼らず、県産材の規格寸法を用いた在来工法を選択しました。架構は2.73mスパンを基本とし、障子を思わせる格子状耐震壁や、大屋根を支える120×300材の跳ね出し梁を2段構成とするなど、単純な構成の中で合理性と美しさを両立させています。過度な装飾は避け、木材の表情がそのまま空間の温かみとなるよう配慮しました。

その結果、設計意図に共感してくださった施工者の尽力により、大工、木材工場、プレカット工場すべて地元のメンバーで体制を構築することができました。地産地消の素材と地元の手仕事が融合し、地域に根差した建築文化の循環が確かな形で息づいています。

木造建築は今、地方から都市へと領域を広げつつあります。地球温暖化対策という大義のもと、木材需要は増していますが、利用拡大そのものが目的化してしまってはいないか、常に自問しています。木がつくる風景、人に寄り添う温かみ、時間によって深まる風合い——その本質を見据え続けたいと思います。

古来の日本建築が示す静かな美と、それを支えてきた職人の存在の尊さ。その連続性の中にこの園を位置づけるとき、「ふつうにつくる」ことは、実は最も高い倫理であり、美意識であると実感します。本プロジェクトは、その確信を私たちにもたらしてくれました。